2018/05/29

”リズと青い鳥”感想


突然だけど"リズと青い鳥"を観てきたので感想を書こうと思う。
ネタバレを自重しないのでこれから観る予定の方はご注意を。

動機は、山田尚子監督&吉田玲子脚本の"けいおん!"、"たまこラブストーリー"コンビで元々気になっていたのと、某フォロウィさんが絶賛されていたことに触発されたから。
"響け!ユーフォニアム"はアニメ1期しか観ていないのだが、ユーフォを知らずにいきなり行っても問題ないとの噂だったので、特に心配せずに映画館に突撃した。
(ちなみに実際に観てみた結果、ユーフォ未視聴でも殆ど問題なく楽しめると私も思う)
メッセージ性が少なくて音と描写でグイグイ押してくる作品だったので、文章で感想が書きづらいのだが、せっかく面白かったので何か書いておこうかなーと。

では以下からネタバレも有りで書いていく。



まず感じたのは、"ユーフォ"と比較して主要人物の人柄が抜群に良いことw
"ユーフォ"は自分の実力を鼻にかけた目立ちたがり屋やデリカシーのかけらも無い女ばかり出てきて、痛快なくらいにカスの集まりだった(これはこれで褒めてる。吹部にはわりといるよね、ああいう子たち!w)。
しかし"リズ"では、主人公格のみぞれと希美、そして同級生の夏紀、優子、後輩の梨々花、講師の新山先生に至るまで、ここは本当にあの北宇治高校吹奏楽部なのか?と首をひねりたくなるほど真っ当な人格者が揃っている。

例えば、3年生同士がみんな下の名前で呼び合っていることからは、4人の関係が非常に良好であるとわかる。
何せ寡黙で馴れ合いを好まないみぞれですら同級生の間では下の名前で呼び合う仲なのだ。
あの態度では「ノリの悪いやつ」と仲間外れにされてもおかしくないはずなので、3年生の間で独りを好むみぞれの性格が受け入れられ、そして善良な本質がきちんと理解されていることに感心した。

また、梨々花を初めとするダブルリードの後輩たちの態度からも、みぞれの善良さが見て取れた。
一緒に遊びに行こうとみぞれを誘う仕草は決して社交辞令で声を掛けている人間のそれではなかったし、あだ名で呼んでみたり希美に相談してみたりする梨々花の懸命な姿からは、心から慕っている先輩との距離を何とか詰めたいと願ういじらしさが伝わってきて胸が熱くなった。

ともあれこの主要人物の人柄を見るに、"リズ"が描きたかったものは"ユーフォ"とは異なっていて、単なる延長線上の番外編として作ったわけではないのだろうなと感じた。


逆に"ユーフォ"の魅力を存分に引き継いでいた点としては、物語上大事な描写を台詞ではなく演奏で見せていた点が挙げられる。
この点に関しては、やはり作中楽曲"リズと青い鳥"第3楽章のオーボエ(みぞれ)とフルート(希美)のソロが象徴的だった。
例えば冒頭の2人だけで吹いてみるシーンでは恐る恐る音を出して。
また、滝先生に注意されるシーンでは非常に物足りなく(私などは橋本先生の如く眉根を寄せてしまった)。
そして、みぞれが目覚めたシーンでは息を呑むほどの鮮やかさで伸びやかに――。
こうした台詞ではなく演奏で物語の意図を伝える表現は"ユーフォ"でも度々見られたけれど、"リズ"も十二分に私たちの期待に応えてくれていた。
正直この表現だけでも観に行った甲斐があるというものだ。


それから冒頭にも書いたことだが、"リズ"の監督と脚本は"たまこラブストーリー"の方々なので、その血も流れているように感じた。
例えば後半(みぞれ覚醒以降)に物語の中心が希美に移る展開からは、転換点となる演奏シーンのドラマティックな描写もあって、飛び石のシーン前後で主人公を入れ替えた"たまこラ"が想起された。
また、大空に飛び立とうとするみぞれに対する希美のわだかまりが解消した時点でスパッと終わってしまう潔さも"たまこラ"的。
更に、もはや言うまでもなく、台詞に頼らず映像や音楽をフルに使う描写方法も"たまこラ"、ひいては"けいおん!"から脈々と受け継がれてきた手法である。

ただし、"リズ"は"たまこラ"と比較してもかなり重厚な雰囲気の作品で、"たまこラ"のフレッシュなライトボディとは違ってフルボディの渋味がある。
"リズ"は涙腺よりも胸に来る映画かなと。


とまあ色々書いてきたけれど、個人的にはやっぱり、9年経って"けいおん!"の手法がここまで進化したのかという感動が大きかったかな。
観てよかったし充分面白かった。皆も興味が湧いたらぜひぜひ観に行ってほしい。