2016/12/25

2016年VOCALOID10選

今年もやってきましたボカロ10選の季節。
選考基準は「印象に残った曲、私自身が好きな曲」。 選考対象は今年公開されたVOCALOID、UTAU、CeVIO歌唱楽曲。
上半期10選の入落選は考慮せず、今(2016年末)の私が選んだ今年の2016年ボカロ10選という体でいきます。
では早速、公開日時順にご紹介。

1. Orangestar / "Alice in 冷凍庫" (2/17)



上半期5選から続投。今年1番の「神が見える」曲。
ハーモニーは薄く、打ち込み感の強いサウンドは必ずしもリッチでない。
しかし、だからこそ、本作はその真価をまざまざと見せ付けてくるのだ。
過剰な伴奏に邪魔されない広々と空いた空間で歌うIAは、時にさえずる小鳥のように、時に大空を舞う白鳥のように、自由自在で伸びやかな表現を聴かせてくれる。
たとえVOCALOIDより情報量に優る人間であってもこれほど自由に歌うことはきっと容易ではない。歌を自分のものにし、歌そのもので聴き手を魅了する本作のIAは、もはや言葉を失うほどの神々しさである。


2. くらげP / "チュルリラ・チュルリラ・ダッダッダ!"(2/22)



これも上半期5選から続投。「ボカロって楽しい!」と、数年ぶりに私に思わせてくれた曲。
高速シャッフルビートに刺激的なサウンド、そして何より間奏のコール&レスポンスが最高に楽しい。誘われるままに「さー、さー、密告だ!」「チュルリラ・チュルリラ・ダッダッダ!」と繰り返せば、熱狂の波に心が踊る。
鮮やかな紫背景にアンチック体で綴られる歌詞の視覚的なインパクトも充分(そして何よりゆかりがかわいいんだ)。
これはいつかボカクラで浴びてみたいなあ。絶対楽しいと思うのよね!


3. FALL / "ワンデイ イン ザ レイン" (4/23)



今年のUTAU枠その1。そして今年最もお気に入りだったR&B。
R&Bらしいウェットなサウンドはしとしと降る雨をぼうっとながめているよう。繰り返される「あめふりしとしと」のフレーズも印象的。
とかく、聴けば聴くほど曲の世界観に引き込まれる。シンコペートしたビートに身を預けていつまでも揺れていたくなるような、極上の心地よさが本作最大の魅力だ。
ボーカルは雨歌エルと雪歌ユフ。この文章を書き始めるまですっかり失念していたのだが、エルは昨年の「永遠なんて知らないよ」に続いて2年連続の選出になった。お見事。


4. みきとP / "39みゅーじっく!" (6/29)



「マジカルミライ2016」のテーマソング。ボカロシーンが空前の大好況に沸いたこの1年を象徴するような、景気の良いEDM。
本作の魅せどころは曲、詞、そして映像と、さながら三所攻めの形である。
まず曲については、とにかくベースがめちゃくちゃカッコいい。唸るような弦の鳴りと跳ね回るビートを聴けば、無意識に身体が動いてしまう。
詞も興味深い。今や世界を股にかけるスターとなったHatsune Mikuが、「NIPPONの魂」、「日は出づるぞ」と非常に日本を意識した歌を歌うということ。これは彼女なりの故郷に対するサービスなのではないかと思われてならない。
そして映像。前記マジカルミライの時のライブ映像がYouTubeで公開されていたのだが、冒頭のキメと言いランニングマンのキレと言い、超カッコいい。ああ、マジカルミライ行っておけばよかったなあ……。


5. ナブナ / "ラプンツェル" (7/6)



当代屈指の人気P、ナブナさんの名曲。
今年のナブナさんと言うとぼからんに毎週4曲も5曲も載せてたりしていたのが印象的なのだが、まあそれはそれとして、今年の新作では本作が圧巻の出来だった。
本作の1番の魅力は、何と言っても途切れぬ緊張感だろう。細糸をピンと張りつめたような糸のような歌い出し。しかもサビで解放するのかと思いきや、そこで更に絞り上げる意外な展開。
温かで柔らかな音色に包まれながら、リラックスどころか呼吸さえ苦しくなるほどの緊張を味わわされるギャップは、正しく今年屈指の名曲と確信している。


6. ナユタン星人 / "飛行少女" (7/13)



誰もが認める2016年の顔、ナユタン星人さんのロック曲。
驚け、上半期5選選出曲のエイリアンエイリアンを外して本作を10選に入れたぞw というか、むしろ選んだ私自身もびっくりだったり。
エイリアンエイリアンは確かに名曲だ。うん、疑うべくもない。じゃあなんでこちらを10選に選んだのかというと、「ナユタン星人さんが聴きたい」と思った時に最初に選んでたのが高確率で本作だったからなんだよね。
決め手はやっぱり、速めのBPMから来るノリの良さと、下から迫り上がってくるようなサビメロ。相撲で喩えると下から下から突っ張られて5小節目の「Wow! Woh!」で完全に仰け反らされる感じなの。
ついでにギターも2小節単位で上昇形のパターンを弾いていて、サビ全体が迫り上がる形になっているし。
それから不協和で解決感の薄い音を多用しているのも好き。その場で止まらずにどんどん前へ進んで行く感覚になるよね。
あれこれ語っちゃったけど、 ナユタン星人さんらしさたっぷりの傑作なので、チェックしてない人はぜひ。


7. narry / "tanzanite" (7/23)



narryさん渾身のピアノバラード。
narryさんはこれまでポストロックサウンドでバラードを作ってこられていた方で、他の方で喩えるとkeenoさんを少しキラキラにしたような作風の方だったのね。
それが本作では趣向を変えて、ピアノ1台だけという腹の据わった編成のバラードで勝負してきた。しかもこれが超本気の名曲で、歌もオケも鬼気迫る説得力ときた。
これまでのnarryさんを知っていたからこそひときわ度肝を抜かれたんだよね。今までとは全然違う震え上がるような迫力が、もう耳に焼き付いて離れなくなった。
narryさんを知っている人も知らない人も、ぜひ1度は聴いてみてほしい名曲。


8. くらげP / "キライ・キライ・ジガヒダイ!" (7/25)



くらげPから2作目の選出、そして2016年の私的最高金賞作品。
最大の「好き」を捧げたい。本当に心の底の底まで全部掻っさらわれた。 9年間ボカロを聴いてきた中でもこれほど心奪われた曲は数えるほどしかない。詞、曲、歌、そして動画、どこを取っても非の打ち所がないくらいに好き。
その中でも特に詞は衝撃的だった。愛に飢え渇いて自我ばかり肥らせた怪獣の顛末はまるで自分のことを歌われているかのようで、非常に強く共感させられた。「あいされたい」、「ほめられたい」、そして「ゆるされたい」……本当にその通りなんだよねえ……。
また音の面でも魅力充分で、ギラギラしたバンドサウンドにソリッドなウナの歌声が映えること映えること。ウナはソリッドで主張の強い歌声である上に情報量も多いので、今のボカロでは頭一つ抜けていると言っていいレベルだよね。
正直、好きすぎてうまく文章にできないのだけれど、それでも冒頭書いたとおり、本作こそが今年の私的最高金賞作品なのだわ。


9. ポリスピカデリー / "Sugar Guitar" (8/23)



今年のUTAU枠その2。今年のUTAUシーンを牽引したポリスピカデリーさんの、レンリ曲3作目。
ポリスピカデリーさんと言えば「神調教の人」というイメージが強いけれど、それは本質ではない。調教が凄いのはこの方の作品なら「当たり前」であって、その上でこれほど完成度の高い曲を作り上げてしまうところがポリスピカデリーさんの神髄なのだ。
「曖昧さ回避」も「Cynic」も確かに凄かった。しかしあの2曲にはまだどこか調教の良さを過度に主張するような一種の嫌らしさがあったように思う。
しかしその点本作は違う。「Sugar Guitar」という曲そのものが猛烈に魅力的なのであって、調教の良さはそれを妨げない要素でしかない。
明るさの中にどこか切なさを感じるメロディ、2番Aメロの意表を突く南国風アレンジ、外国語のような独特の歌詞の載せ方等々、個性的で完成度の高いポリスピカデリーさんらしさ満点の作品なのだ。


10. はるまきごはん / "フォトンブルー" (10/22)



幻想的で感傷的で心揺り動かされるような、はるまきごはんさんのロック曲。
この曲の魅力は何と言っても歌声の質感だ。 聴き様によって泣き声のようにも聴こえるミクの歌声はまるで硬質で透明な硝子のよう。
この歌声でキザなほどに感傷的な詞を歌われると、思わず心を直接掴まれてがんがん揺り動かされるような感覚に陥ってしまう。
また、バックも含めたサウンド全体から放たれる非常に感傷的な響きは、もう絶品である。
特に、無音の1拍を挟んでから絶叫するように歌い始めるラストサビなど、あまりの美しさで思わずため息が出てしまう。
幻想的で感傷的で心揺り動かされるようなロック。そんなキーワードに惹かれる人にはぜひ本作を聴いておいてほしい。


以下あとがき。

2016年12月25日時点での再生数平均値502943、中央値が319001。最大値はチュルリラ・チュルリラ・ダッダッダ!の2144900、最小値はワンデイ イン ザ レインの8358。
昨年と比較すると、どの値も数~十数倍増加している。
おいおいメジャー志向にもほどがあるよ、私。シーン全体の伸びが良くなってるのもあるかもだけど、それにしてもねえ……。
まあ最近の私はわりとメジャー志向を意識しているところもあるので、それが数字に現れたってことですかね。来年はどうなることやら。

でもって軽く今年の総括。

2016年いいかげんにしろ。
何度そう言ったかわからない。2016年はボカロシーンにとって最高にエネルギッシュでエキサイティングな1年だった。
ゴーストルールのぼからん史上初4連覇から始まり、四天王の台頭、罪の名前ショック、Fukaseやウナ、レンリの活躍、年末の注目作ラッシュ等々、ボカロシーン始まって以来これほど盛り上がった年があっただろうかと考えてしまうほどの凄まじさ。
「チュルリラ・チュルリラ・ダッダッダ!」のくだりでも書いたけど、私自身 「そういえばボカロってこんなに楽しかったんだ!」と思うくらい楽しくて、詳細に語り始めたらとてもあとがきの分量でなくなってしまいそうだから書かないけどね。

曲チェックの方法は相変わらず、ぼかうたらん+みてれぅちゃんねるでの新曲チェックをベースにしてきた。それからTwitterでホットな新曲を拾ってみたり、おすすめされたのを聴いてみたり。この辺も例年通りだね。
ただ今年の11月からボカロ系クラブイベントに行くようになって、今までとは全然違うシーン、全然違う人達と触れ合うようになったので、これは今後影響するかもしれない。
話は逸れるけど、ボカクラの話はいずれ別の機会にちゃんと語っておきたい。2016年末現在めっちゃくちゃ楽しくて、来年も通う気マンマンなのよね。またいずれ機会があればこの話も。

閑話休題。
何度も繰り返すけど、2016年はボカロシーンにとって、そしてボカロファンたる私にとって特別な1年になった。
この勢いが今後も続いてくれることを、いやこれまで以上の勢いでシーンが発展してくれることを切に願う。

さあ、来年はどんな「2016年」がやってくるのかな、今から楽しみだ!